古座川清流鹿の生みの親 古座川ジビエ 山の光工房
調理のプロによる解体で、山の恵みが最高の食材に
大塔山系に起源をもつ清流・古座川に沿って、町を包みこむように静かで深い山が覆う。そんな古座川町の里山の暮らしは、山林や生態系が豊かに保たれるよう人の手を適切に入れ、それらを生活に取り入れる「循環型」で育まれてきました。
ところが、林業の衰退から山のバランスが崩れ、いつしか鹿などの野生動物が人里に現れては農作物に被害を与えるように。そんな中、自然からの恵みとして鹿を中心としたジビエをいただこうと生まれたのが、「古座川ジビエ 山の光工房」です。
こちらの施設の特徴は、徹底した管理工程にあり。
狩猟、罠猟で運び込まれる鹿は、獲れて1時間、冬場でも2時間以内のものに限り、衛生面を徹底。それ以上の時間がかかった個体は内臓の温度でみるみる肉が傷んでしまうのだそう。 電動皮剥機を使うなど、なるべく手を触れない衛生的な処理を心がけ、冷蔵庫で熟成させた肉はトリミングの後に急速冷凍。全ての段階でしっかりと処理を施すことで、「ジビエらしさがなさすぎる」と言われるほど、繊細で旨味ある肉に。
こちらの工房で生まれる鹿肉は「古座川清流鹿 金もみじ」の名前で全国各地に流通しています。美しい清流で育った新芽を食べる鹿。その肉はきめ細やかでハリがあり「金もみじ」の名前にふさわしく、萌えるような美しい紅色の中に金色の輝きを宿します。
解体に携わっている向井秀夫さんは、長年ホテルやレストランで腕をふるってきた現役の料理人。そのため、解体するだけでなく、その肉を調理をする側の気持ちにも精通しています。
届いたときに感じの良い清潔さを考え、調理時にトリミングせずとも使えるよう処理段階でのトリミングを徹底。また馴染みの薄い食材なだけに、どんな料理に向く部位なのかなどをアドバイスできるのも、その経験があればこそ。
「金もみじ」は東京、大阪などにも多く流通していますが、実際に向井さんの的確なアドバイスが役に立っているという声が多いのも頷けます。
1次処理から2次処理の間に冷蔵庫での熟成が入ることもこちらの施設の特徴の1つ。枝肉の状態で庫内に吊るすこの工程が入ることで、水抜き、血抜きをさらに完全にすると同時に、肉質を落ち着かせることができます。それぞれの個体にはタグがつけられ、推定年齢や性別、サイズ、持ち込んだ人もわかるトレーサビリティを徹底しています。
工房ができたのは平成27年と県内の処理施設では新しく、設備も最新。中でもアルコール液による急速凍結で瞬間的にマイナス30度に冷凍し、細胞組織を壊さず鮮度を保てる瞬間液体凍結機は、金もみじの品質を支える重要な設備。これにより解凍後のドリップを軽減し、旨味成分を閉じ込めることができるのだそう。他にも足1本でも入る大型の真空機など、充実の設備が整っています。
「料理人から見たら、1つの素材なんですよ」と向井さん。その感度を持つからこそ、運び込まれたばかりの状態でも、調理することを念頭に解体に当たれるのでしょう。
「衛生的に、おいしく食べてもらえること」をベースに、丁寧に刃を入れる。魚は捌いても、ジビエを解体するのは、ここにきてからでした。大きさこそ違えど捌くことには慣れているためか手際もよく、今ではもう1人いる解体士と2人で年間600頭を処理。「昔は臭みのため毛嫌いされていたけれど、ちゃんと処理をしたら癖なくおいしい食材。1人でも多くに人に知ってほしいもの。将来的にはスーパーに並ぶようになれば」というのが向井さんの切なる願いです。
今なお形を変えて受け継がれる里山の暮らし方
2016年には古座川町と県内に展開するベーカリー「カワ」が協力して開発した「里山のジビエバーガー」が全国ご当地バーガーフェスタで優勝するなど、その味と物語が全国的にも評価されました。
そして2019年新たに「こころうたれる」シリーズとして、ハンバーグやコロッケ、焼肉などの加工品の販売も始まっています。できるだけ捨てるところがないよう配慮し、皮は和歌山市内でのなめしを経て、革製品を扱う工房に卸すなど、山の恵みを余すところなく活用しています。
神々が宿るとされる熊野の秘境、古座川。人口より鹿の数が多くなった今も、山の恵みを生活に循環させる暮らしが今なお息づいています。
Shop Information
紀州ジビエ 山の光工房
住所 | 東牟婁郡古座川町月野瀬851 |
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電話番号 | 0735-72-6006 |
営業時間 | 9:00〜17:00(問い合わせ) |
定休日 | 土曜・日曜・祝日 |
URL | http://kozagawa-gibier.jp |